1.メインフレーム大撤退時代
富士通は
2030年度にメインフレームの販売を終了し
2035年度にサポートを終了する
日立製作所は
2017年にメインフレームの筐体製造から撤退する
2025年2月3日付でNHKが日本IBMに対し、
東京地方裁判所に民事訴訟を提起する
2.解説ポイント
NHKが案件の継続に比較的早く見切りをつけたため、
訴状でも具体的な内容に触れておらず、情報が少ないが
メインフレームを利用してきた企業が今後、
ITシステムを再構築する際に発生しがちな問題を
ユーザー企業の経営層やIT部門と共有し、その回避策を探る
3.争点
NHK側の言い分
日本IBMの申し出による大幅な契約内容の見直しは容認できない
契約解消に至った最大の理由だと推測する
日本IBMの言い分
現行システムの複雑性が判明したため
「より確実な移行方式に向けた協議を申し入れたがNHKが応じなかった」
訴訟提起に異議を表明している
4.スケジュール
2020年8月:NHKがアクセンチュアの支援を受けて要件定義に着手
2022年12月:日本IBMが選定され、契約締結
2027年3月納期、5年3カ月のプロジェクト
2023年3月末:現行システムの分析・移行計画の妥当性に関する
アセスメント工程を計画通り終了
2023年4月~2024年2月:基本設計工程開始、2回の延期を経て、
当初予定である2023年9月から5カ月遅れで終了
2024年3月:IBM社から詳細設計工程に進めることができず、
16ヶ月以上の遅延が発生することをNHKに表明
2024年4~5月:両社で検討するも、
5月23日に日本IBMが最低18カ月延伸を正式表明
2024年8月:EOLまでに移行できないとのことでNHKが契約解除、
合計約54億円の代金返還を日本IBMに求める
5.システム概要
本システムの規模とプログラミング言語
移行対象は全体で1030万ステップ
対象プログラム言語はCOBOLやJCL
富士通のデータベース生成用言語、アセンブラ等
本ITシステムの概要と認識
基幹システムはさまざまなサーバと接続されており、
トラブル時の影響は極めて大きいITシステム
東西で15分のディレードでバックアップされており、
大規模災害に対応できる構成になっている
特にポイントになるところ
業務管理機能(40万ステップ)は、
現行機能のままリライト中心で移行
※NHKは実現可能性への懸念を日本IBMに表明
6.具体的な内容
富士通製メインフレームで稼働する営業基幹システム(EGGS)について
新システムを開発し、クラウドに移行する業務委託契約
当初の納期は現行システムがEOLを迎える2027年3月末を予定する
富士通のメインフレーム事業撤退による影響が大きい
富士通製品のEOL(製品サポート終了)がそもそもの出発点
EOLへの対応などに関する契約を双方がどこまで正確に理解していたか
富士通は2035年度にメインフレームの保守を終了し、
2030年度にメインフレームの販売を終了すると発表している
本件のスケジュールに余裕はなかったと推測される
2024年3月に日本IBMはスケジュールの「1年半の延伸」を
NHKに申し入れる
当初予定されていた納期である2027年3月末から、
2028年9月を納期とする新たなスケジュールを提示する
2027年3月末納期の日本IBMのコミットメントの度合いも重要なポイント
日本IBMは最終的な納期が18カ月以上遅れる可能性を示唆している
納期を延伸する理由として「システム品質と性能を確保」を挙げている
スケジュールを複数回変更してきた日本IBMを信頼できないNHK
7.想定された懸案事項
基幹系ITシステムの再構築
日本IBMが申し入れた契約変更が
NHKの事業継続に致命的なダメージを与えるのであれば、
NHKの判断もやむを得ない
日本IBMも事業継続に関わるものであることは契約時に認識していたはず
日本IBMには、開発期間や移行期間を適切に設定する
プロとしての見識を求められている
日本IBMは契約に関して十分にリスク管理していることで知られている
メインフレームの衰退とリスク「待ったなし」の状況
メインフレームを使い続ける、という選択肢にはリスクがある
「IBM Z」に移行する場合、どのような点がハードルになるか
日立製作所と富士通のメインフレームは、
IBMのメインサーバーとコンパチブル(互換可能)な機種
「IBM産業スパイ事件」(1982年)以降、技術の分離は進んでいる
通信手順
IBMの「SNA」(Systems Network Architecture)
日立製作所は「HNA」(Hitachi Network Architecture)
富士通は「FNA」(Fujitsu Network Architecture)
トランザクションマネジャーおよび階層データベースマネジャー
IBMの「IMS」(Information Management System)
日立製作所は「VOS3」で
データベースの管理システム
IBMの「IBM Db2」
日立製作所は「XDM」(Extensible Data Manager)
プログラミング言語
「COBOL」も独自の機能拡張や「方言」が存在する
OSやデータベース
大口顧客に対しては個別対応を入れている可能性もある
8.新たな懸念事項
特に難易度が高い「Google Cloud Platform (GCP)」への移行
メインフレームであるZサーバーへの移行は、比較的対応しやすい
クラウドへの移行を予定していた
「Amason Web Services」や「Microsoft Azure」でなく
移行の難易度が高い「Google Cloud Platform」だった
GCPはクラウドネイティブなソフトウェア開発に向いている
9.メインフレームからクラウドへ
メインフレームのデータベースシステムをサポートする仕組みは、
基本的にどのクラウドベンダーも持っていない
最初からシフトする場合、
マイクロサービスに適応させるために現行の業務を分析して見直す
その上で、事業全体の抜本的な見直しも必要になる
NHKとITベンダーが一体となる体制づくりが必要だった
経営陣も含めた新たな関係構築を進める必要があった
ITシステムが止まれば事業活動ができなくなると認識していながら
クラウド移行の責任をITベンダーに丸投げする形を取り続けている