『日本古典籍データセット』(国文研等所蔵) 番号969利用
1.原典
2.読み下し文と解説
河内編
河内国の人は風俗上下男女ともに気柔にして、譬ば雪の朝に庭前を見れば、一柳の枝をたおますと云えども、不折か如し。 | 河内の国の人は地位の上下や男女を問わず物腰柔らかく、例えば雪の降った朝に庭を見れば、柳の枝が撓んでいても、折れないようなものである |
上手の風俗と可知なり。 | なかなか品行がよろしい |
然ば士農工商ともに富貴なる人は都而驕りの気ありて、人を足下に見卑しむ心甚強し。 | しかし、どの職種・階層においても富裕層は傲慢で、人を見下す心が非常に強い |
雖然気に和あるか故に、物の道理を知る時は、名高き人もあるべき也。 | それでも性根に人の和を求める心があるためか、物事の道理を知っている場合は、世に名の知れた人となることが出来る |
上河内は城州に風俗不替也。 | 河内国の北側は山城国と替わりない |
下河内は人の気直にして、頼母敷き所あり。 | 河内国の南側は性根が真っ直ぐで、頼もしい所がある |
丹南郡・石川郡・錦郡の人は別而余国に違て、智恵有りて、実有りて、物の品ふり言葉の様子は城州に似たるようなれども、上下ともに毎物卑劣也。 | 丹南郡・石川郡・錦郡の人は他の地域と異なり、智恵が有り、誠実で、物品や言葉の感じは山城に似ているが、やることが下品 |
此是国の人を靡けんには、その政を緩くし、気を固うして、少し弁ある人を招きて談する時は、危なきことなく可従。 | この国の人を靡かせるには、施政を緩くし、気が合いそうな少し話の上手い人を招いて話させれば、危なげなく従わせることが出来るだろう |
もし権威を振う時は、悪む処の者多かるべし。己が長を立てる則は、必妬起り禍をだくむ故に、却而敵となるべし。 | もしも施政者になった時は、それを憎む者が多く居る。自分の長所を誇示すると、必ず嫉妬しよからぬことを企むから、却って敵対した方が良い |
亦自言を出て人を誹る時は、還而是国の人は憤りを深くして、従うよう成とも、服する処なかるべし。 | また、自分の言葉で人を誹る時は、この国の人は憤りながらも表に出さず、従っているように見えても、心からは従わない |
誠にその国のその湿土因て、音聲の替わること可知事也。 | 本当にその国のその風土によって、声色が変わる事を知るべきである |
和泉編
和泉国の人は風俗曾而実儀なく、最も、千人に一二人は実儀の人もあるけれども、都而物の上手なるもの無くこれ、増而名人と云うほどの者鮮し。 | 和泉の人は誠実さに欠けている、もっとも千人に一人二人は誠実な人も居るが、有能な人は居らず、ましてや名人と呼ばれる者はまず居ない |
末世も左あるべし。 | この世の終わりのようである |
本この国は河内と紀伊国より割り出したる国と聞く。 | この国は元々河内国と紀伊国から分割された国であると聞く |
先その風俗を見るに、人を誑かし、出家沙門他国の商売の人等金銀を蓄うと見る則は、関東の人を殺害するの類は無うして、懐けて後に品を以てかどわかす等の風儀なり。 | どのような風俗かというと、人に言いよって僧侶や他国の商人が金銀を蓄えているとみるや、関東のように殺すのでは無く、親しくなった後に手練を以て奪い取る等をする |
根本に実儀少なきか故に、譬ばカミソリの金の悪きを如見也。 | 根本的に誠実さが少なく、例えば刃の悪いカミソリのようである |
人前行跡は如形見ゆるといえども、彼のカミソリの金少なきが如く故に、後には可用様無きに等し。 | 人の進んだ跡には、その人となりが見えるというが、彼らはカミソリの刃が少ないかの如くだから、後に残るものは無いに等しい |
たまたま実儀の人ありといえども、国風の垢を削る人無き故に、身持惰弱にして踏しむる心も後は大形失こと也。 | たまたま誠実な人が居ても、悪い所を改める人が居ないから、堕落して決意も大方失われてしまう |
石津、神馬・藻・塩・船乗り余国に勝れたり。 | 石津の神馬、藻、塩、船乗りは他の国より優れている |
この国を傾けん事は5日の内なり。 | この国を傾ける事は5日の内で出来る |
威を高く振り、卒法を以てこれを動ば不可経数日也。 | 強気に出て、兵法を以て動かせば数日を経たらない |
次に疱瘡人多し。 | 次に天然痘の人が多い |
篠田明神に野狐多し。 | 篠田明神に野狐が多い |
この野狐人を能く誑かすことを得たり。 | この野狐は人を能く誑かすことをする |
さればこの国はただ野狐に衣服をしたるに似たり。 | まるでこの国は野狐に衣服を着させたに似ている |
不頼別て和泉府日根悪。 | 和泉郡、日根郡は頼りにならず悪い |